内部エネルギーの絶対値は? 熱力学と相対性理論の結びつき

 物質には運動エネルギーや位置エネルギー以外に、動いてなくても持っているエネルギーがあります。熱力学でいう内部エネルギーです。
 しかし、熱力学の範疇では、内部エネルギーゼロの基準を決めることができません。
 もし、内部エネルギーがゼロになる絶対的な基準があるとしたら……。
 質量ということになるでしょう。アインシュタインのE=mc2です。

内部エネルギーの絶対値

熱力学では内部エネルギーの絶対値は必要ない

 以前の記事「熱力学第一法則の基本。内部エネルギーと熱」で、熱力学では物質は存在しているだけで持っている内部エネルギーというエネルギーがあることを説明しました。
 そのときに書いた内容を少しおさらいします。

熱力学では、内部エネルギーEそのものの絶対値は決まらない。しかし必要なのは、変化前後の内部エネルギー変化ΔEなので絶対値は問題ではない。必要なら適当に基準を置いてその基準での内部エネルギーとゼロと置けばいい

 まあ、このこと自体は間違いないのですが「熱力学第一法則の基本。内部エネルギーと熱」ではこう締めくくりました。

「ちょっと待て。エネルギーは0という基準があるじゃないか」という反論があるかもしれません。それについてはいつかまた説明するとして、とりあえず「熱力学の範疇ではエネルギー0の基準を決めることはできない」と考えておいてください。

 このことを説明するときがきました。
 もし、内部エネルギーゼロを決める絶対的な基準を考えるとしたらこれだろうというものが実はあるのです。

内部エネルギーの絶対値はE=mc2

 内部エネルギーは、物体が動いている運動エネルギーや物質がある場所の位置エネルギーではなく、物体が存在するだけで持っているエネルギーです。

 熱力学誕生当時の人たちには思いもつかなかったことですが、現代に生きている私たちは似たようなエネルギーを知っています。

 静止した状態でも持っているエネルギー……。

 アインシュタインの特殊相対性理論から得られる E=mc2です。
 ちなみにmは物体の静止質量、Eは物体が静止していても存在するだけで持っているエネルギーです。物体の運動量がゼロのときのエネルギーです。

「このEは熱力学の内部エネルギーそのものじゃないか!」

 そう思いませんか? 私自身はE=mc2のEは「内部エネルギーである」と言い切っていいと思っています。

内部エネルギーの絶対値はどのくらいか?

 もし、内部エネルギーの絶対値がE=mc2で表されるとすれば、どのくらいのエネルギーになるのでしょうか?
 1ccの水の内部エネルギーを計算してみます。1ccの水は約1g、これをE=mc2に当てはめて計算してみます。

 結果は、2×1019cal(9×1019J)です。2000億calの1億倍です。

 ちなみに、1gの水を10℃温度を上げるのに必要なエネルギーは約10calです。これを、2×1019calを基準にして計算のは大変です。

「2000億×1億calのエネルギーが、2000億×1億+10calに変化しました」

 変化が微小すぎます。

「太陽から地球の距離が、0.1ミクロン変化しました」

 くらいの話です。

 0.1ミクロンの話をするのなら、太陽と地球の距離などを基準にせず、もっと小さいスケールの基準を使わないと計算がややこしくて仕方ありません。

 ですから、現在でも熱力学で内部エネルギーを計算するときは、絶対値は適用する現象に合った基準を決めて考えています。

エネルギーのレベル

温度変化のエネルギー

 物質の各種変化に伴うエネルギー変化がどの程度になるか計算してみます。
 まずは、物質の温度変化のエネルギーです。

 先ほど説明したように、1gの水の温度を10℃上げるのに必要なエネルギーは10calです。
 これは、分子の運動エネルギー変化に相当するものです。分子の運動エネルギー変化量は1gあたり数十cal程度のレベルだということです。

 熱力学的な基準としては、分子の運動エネルギーだけが問題になる場合(理想気体の挙動など)では、全分子が静止したと仮定したときのエネルギーをゼロとして計算したりします。

相変化のエネルギー

 他の変化を見てみましょう。水が氷になったり水蒸気になったりという形態の変化(相変化)のエネルギーです。これは、分子の運動ではなく分子の配列変化に伴うもので、温度変化とは違うタイプのエネルギー変化です。

 この変化は、1gあたり数百calのレベルです。少し温度変化よりは大き目といったところでしょうか(もちろん温度は数千度変化させる場合もありますので、その場合は温度変化の方がエネルギー変化も大きくなります)。

 温度変化と同程度で大きな違いはありません。同様の基準で扱えます。

化学変化のエネルギー

 次は化学反応です。
 相変化は分子の配列の変化でしたが、化学反応は分子自体が変化します。分子を構成する原子の配列変化に相当するエネルギーと考えればいいでしょう。

 化学変化では、1gあたり大体数千calくらいのエネルギー変化になります。化学反応の中でもエネルギー変化が大きい(発熱が大きい)燃焼の場合で、数万calくらいのレベルです。
 状況によっては、相変化の百倍くらいになるのです。

 分子の配列変化(相転移)より、その分子を構成する原子の配列変化の方がエネルギーが大きくなっています。

 ちなみに、化学反応の場合は各原子(元素単体分子)が、25℃、1気圧にあるときのエネルギーを標準にとって表したりします。

核反応のエネルギー

 次は核反応です。核反応は陽子や中性子の配列変化によるものです。

 分子の配列変化より、分子を構成する原子の配列変化の方がエネルギーが大きくなっていました。

 その類推から、その原子を構成する陽子や中性子の配列変化はもっとエネルギーが高くなると予想されます。

 そして、皆さんご存知の通り、実際に膨大なエネルギーになります。

 核反応の種類にもよりますが、1gあたり数十億calくらいのエネルギー変化が起きることがあります。化学反応から一気に大きくなりました。燃焼反応の十万倍です。

 熱力学は通常は化学変化までを取り扱うことが多いものです。
 しかし、熱力学自体はどんな場合にでも成り立つ法則です。当然、核反応も扱えます。

 でも、ここまで大きなエネルギーギャップがあると、同列で計算する意味はほとんどありません。核反応が起これば、それ以外のエネルギー変化は誤差範囲みたいなものです。

 ですから、熱力学は同等のレベルで扱える化学反応までに適用することが多いのです。

 ちなみに、これほど大きい核反応のエネルギーでも、全内部エネルギー(E=mc2)の数十万分の1の変化に過ぎません。

E=mc2の考え方

E=mc2のEは内部エネルギーだ

 もう言い切ってしまいます。E=mc2のEは内部エネルギーです。
 この時のmは静止質量(現在ではこれを質量と呼びます)です。

 エネルギーを加えて温度が上がると内部エネルギーが増加します。もしE=mc2のEが内部エネルギーなら、その分質量が増加するはずです。これは、相変化でも化学反応でも同じことです。

 ラヴォアジエの質量保存の法則というのを習ったと思います。化学反応の前後で質量は変化しないという法則です。
 でも実際には、質量は保存されないのです(だから海外では質量ではなく物質量が変化しないという表現に変えて教えているとかどうとか)。

 しかし、化学反応ではエネルギー変化が小さいので、それに伴う質量変化が小さすぎて測れないだけです。

 核反応のエネルギーレベルになってやっと、質量変化が測定できる領域に入るのです。それだけのことです。

原子力のエネルギーは、E=mc2によるものだ」というのなら「化学反応のエネルギーはE=mc2によるものだ」と言ったっていいのです。何も違いはありません。

 しいて言えば、現在の人間の質量測定能力範囲内かどうか、ただそれだけの違いです。

ポテンシャルエネルギー

 これまでの説明で、敢てぼかして表現してきたものがあります、
 温度変化は分子の運動エネルギーに相当するとしました。これは明確です。しかし、それ以外は配置の変化という言葉を使いました。これって、どんなエネルギー? 疑問に思われた方もいるでしょう。

 答えは位置エネルギーです。運動エネルギー以外のエネルギーと言えばこれしかありません。

 ただ、位置エネルギーというと、高いところにある方がエネルギーが高いとかE=mghという地球の重力に対する位置エネルギーを思いだしてしまいます。
 しかし、位置エネルギーは何も地球の重力に対してだけ発生するものではありません。何らかの力(摩擦力のようなものは除く)があれば、それに対応する位置エネルギーがあります。

 位置エネルギーというと重力に対するものをイメージしてしまいがちなので、区別するために一般的にポテンシャルエネルギーと呼びます。

 分子の配列(相変化)のエネルギーは、主に電気的な力に対するポテンシャルエネルギーです。とは言ってもプラスの電荷とマイナスの電荷が直接引き合うクーロン力と言われるものではなく、そこから発生する副次的な力です。

 物質の内部エネルギーは、分子の運動エネルギー分子のポテンシャルエネルギー分子自体の内部エネルギーによって構成されていることになります。

 物質の内部エネルギーは物質の質量です。分子自体の内部エネルギーは分子の質量です。それ以外に分子の運動エネルギーとポテンシャルエネルギーがあります。

 ということは、物質を構成する分子の質量の合計と、物質自体の質量は、分子の運動エネルギーと分子のポテンシャルエネルギーの分だけ食い違っているはずです。

 ただ、その質量変化が小さすぎて測定できないだけなのです。

化学反応の場合

 化学反応のポテンシャルエネルギーも、主に電気的な力によるものです。プラスの電荷を持った原子核とマイナスの電荷を持った電子の位置関係によってエネルギーが変わります。

 このエネルギーは、量子力学を使えば計算できます。
 現実的には、複雑な化学変化の場合は、コンピューターを使っても大変な計算になってしまうのですが。

 分子の内部エネルギー(=質量)は、それを構成する原子核と電子の内部エネルギー(=質量)と主にこのポテンシャルエネルギーからなるエネルギーを合計したものです。

 ですから、分子を構成する原子核と電子の質量を足し合わせたものと、分子の質量は食い違うはずです。まあ、これも測定できるほどではありません。

核反応の場合

 核反応の位置エネルギーは、原子核を構成する核力と呼ばれる力に対するものです。あの湯川秀樹博士の理論です。

 原子核の内部エネルギー(=質量)は、それを構成する陽子と中性子の内部エネルギー(=質量)と、このエネルギーを足し合わせたものになります。ですから、陽子の質量と中性子の質量を合計したものと、原子核の質量はその分の食い違うはずです。

 そして、これは……測定できるレベルです。これを言いたいがために、ここまで同じことを繰り返してきました。

 原子の質量は、陽子の質量と中性子の質量(電子も)を合計したものよりも、実際に小さいのです。これを質量欠損と呼びます。これが、陽子と中性子のポテンシャルエネルギーに相当します。

 ですから、核反応が起こるとき、反応前の原子核の質量と反応後の原子核の質量がわかっていれば、それによってどの程度のエネルギーが発生するのか計算できるのです(核融合なら反応前は融合する原子核の質量の合計で、核分裂なら反応後は分裂してできる原子核の質量の合計です)。

 それもE=mc2という簡単な計算で。

 いうまでもありませんが、実際に発生するエネルギー量を測定すると、E=mc2という計算通りだということが確認されています。E=mc2反対論者にとっては悲しい事実ですが。

その下のレベルは?

 どうやら下層のレベルにいくに従い、エネルギーが大きくなっているようです。それでは、その下のレベルはどうでしょうか?

 陽子や中性子は、クォークからできています。これまでと同じように考えてみましょう。陽子はアップクォーク2つとダウンクォーク1つから構成されており、強い力という力に対応するポテンシャルエネルギーを持っています。

 クォークの質量の合計と陽子の質量を比べて差があれば、それがそのポテンシャルエネルギーです。陽子の質量もクォークの質量もわかっているので足し算するだけです。

 クォークの質量を合計して、陽子の質量と比較すると……全然足りません。クォークの質量を全部合計しても陽子の質量のたった2%にしかなりません。
 もう、質量欠損なんてレベルではありません。98%欠損です。いやはや凄いエネルギーです。陽子だけでなく中性子の方も事情はそれほど変わりません。

陽子や中性子をクォークに分裂させれば、原子力など比較にならないほど、とんでもないエネルギーが取り出せる」のです。エネルギー問題は一気に解決できます。

 でも、残念なことにそんなことは起こりえないようです。

内部エネルギーの入れ子構造

 物質のエネルギーは、物質の内部エネルギー+運動エネルギー+位置エネルギーです。内部エネルギがを質量なら、全エネルギーのうち、運動エネルギーや位置エネルギーはごくわずかで、ほとんどが内部エネルギーです。

物質のエネルギー=物質の内部エネルギー物質の運動エネルギー+ポテンシャルエネルギー

 という感じです。そして、その構造を細かく見ていくにつれて、

物質の内部エネルギー=分子の内部エネルギー+分子の運動エネルギー+ポテンシャルエネルギー

分子の内部エネルギー=原子の内部エネルギー+原子の運動エネルギー+ポテンシャルエネルギー

原子の内部エネルギー=陽子、中性子、電子の内部エネルギー+陽子などの運動エネルギー+ポテンシャルエネルギー

 と入れ子構造になっています。階層が進むにつれて、運動エネルギーやポテンシャルエネルギー割合が増えていきますが、全体に比べればごくわずかです。

 ほとんどは内部エネルギー=質量です。

 そして、私たちが利用しているのは、ごくわずかな「運動エネルギーやポテンシャルエネルギー」だけなのです。

陽子、中性子の内部エネルギー=クォークの内部エネルギー+その他

 ここまで来て、その他の方が優勢になります。内部エネルギーの方がごくわずかです。でも、このエネルギーは利用できないようです。

内部エネルギーの正体

 物質の内部エネルギーは、E=mc2で表される莫大なエネルギーです。

 そして、そのほとんどは陽子や中性子内にあるクォークのエネルギー(全エネルギーの98%)です。

 しかし、残念ながらこのエネルギーを取り出して利用することはできないのです。

 神様は、物質が持つエネルギーのほとんどを、利用できな部分に隠してしまったようで

「人間がこんな莫大なエネルギーを手にしてはいけない」

 ということでしょうか。

コメント

  1. 宮地宣夫 より:

    静止質量は内部エネルギーであり、一般の物質、結晶組織、分子、原子、素粒子と細分化されて、すべての段階で入れ子構造になっているという考え方に賛成です。ポテンシャルエネルギのない単純な内部粒子の運動エネルギだけの階層構造になっているとしても、相対論が成り立つ前提で、質量エネルギについてE=M0c^2が証明できます。我田引水になりますが、miyajiphysics.info を参照してください。

  2. リケイ人 より:

    宮地宣夫様
    コメントありがとうございます。
    エネルギーと質量の等価性について、よく「質量がエネルギーに変わる」と説明されるため、それによる誤解が広がっているように思っていました。ですから、逆に質量の起源がエネルギーだという「エネルギーが質量に変わる」みたいな説明をしたくて書いた記事です。
    こうなると、質量とは? エネルギーとは? という言葉の定義を明確にしないと訳がわからなくなってしまいますが、この記事では、自分のイメージを説明するために都合のいいように言葉を使ったきらいがあるのが気がかりです。
    宮地様のサイト、じっくり拝見させて頂きます。私の能力では、流し読み程度では理解できそうにありませんので(こんなサイトを作ってるくせにww)