熱力学第一法則の基本。内部エネルギーと熱

【目からうろこの熱力学】その3

 熱力学第一法則はエネルギー保存の法則です。

「力学的エネルギー以外に、物質が内部エネルギーを持っている」と考えれば、エネルギー保存則はどんな場合にも成り立つ。これが熱力学第一法則です。

 内部エネルギーは何ら特別なものではなく、石油のエネルギー、食品のエネルギー(カロリー)など、私たちが普段エネルギーと呼んでいるものの多くは内部エネルギーです。

 難しいことは何もありません。
 ちょっと熱力学第一法則に足を踏み入れてみましょう。 

「目からうろこの熱力学」前の記事:エネルギー保存則とは何か?熱力学第一法則を理解するために必要なこと

日常会話で使う「エネルギー」

エネルギーという言葉を使う例

・日本では、ひとり当たり年間で石油3.5トンのエネルギーを消費しています(2012年)。

・成人は、一日2000キロカロリー程度のエネルギー摂取が必要です。

 普段私たちは、エネルギーという言葉を、こんな感じで使われていることが多いでしょう。この場合のエネルギーって何でしょうか? 運動エネルギー? 位置エネルギー?

 どちらでもありませんよね。

 力学的エネルギー保存の法則に使われ、力学の法則から導かれる「運動エネルギー」や「位置エネルギー」とは違うものを私たちはエネルギーと呼んでいるのです。

「石炭のエネルギー」と言うとき、石炭の塊が動いている「運動エネルギー」や石炭が高いところにある「位置エネルギー」を指すことはありません。

 これらは、何のエネルギーなのでしょう。

新しいエネルギー、内部エネルギー

 熱力学第一法則では、物質は動いていたり、高いところにあったりしなくても、存在するだけでエネルギーを持っていると考えます。これを内部エネルギーと呼びます。

 運動エネルギー、位置エネルギーに加え、内部エネルギーを導入することで、エネルギー保存則がどんな場合も成り立つというのが、熱力学第一法則です。

 ですから、摩擦などによって力学的エネルギー保存則が成り立っていない場合、それを打ち消す分、何かの物質の内部エネルギーが変化していることになります。

 もちろん、適当に導入した訳ではありません。そう考えることで、数多くの現象が説明でき、実際に実験を積み重ねて導かれたものです。

内部エネルギーの正体

 内部エネルギーを導入して、エネルギー保存則はどんな場合も成り立つと仮定すれば、色々な現象や実験結果が上手く説明できます。

 しかし、元々エネルギー保存則は力学の法則から導かれたものです。

 それに、勝手に新しくエネルギーを付け加えたりしても大丈夫なのでしょうか?
 というより、何故それで上手くいくのでしょうか?

 実は、内部エネルギーとは言っても、その正体は何らかの運動エネルギーや位置エネルギーなのです。例えば分子が動いている運動エネルギーや、分子に働く電気的な力の位置エネルギーなどでです。

 それ以外にも分子内部の原子の運動エネルギーや位置エネルギー、原子核を回る電子の運動エネルギー、原子核内の陽子や中性子の運動エネルギーや位置エネルギー(核力と呼ばれる力に対するもの)、色々です。

 このような私たちの目に見えないエネルギーを全てひっくるめて「内部エネルギー」と呼んでいるのです。熱力学第一法則は、力学の法則を無視したものではなく、きちんと力学の法則に則った法則です。

(参考記事:内部エネルギーの絶対値はどのくらい?

熱というもの

熱もエネルギーの一種?

 熱力学第一法則では、もうひとつ大事な概念があります。「熱」です。「熱エネルギー」という言葉があるのですから、熱もエネルギーの一種と考えることができます。実際に、熱力学の教科書にも、熱はエネルギーだと書かれている場合もあります。

 しかし、これは誤解を招きやすい説明です。実は「熱エネルギー」は、「運動エネルギー」「位置エネルギー」「内部エネルギー」と同列で扱うべきものではないのです。

 では、何と同列に扱うべきものでしょうか。

熱はエネルギーの移動方法のひとつである

 熱は、エネルギーが移動する方法のひとつなのです。

 Aという物質からBという物質に熱が移動したとき、Aのエネルギーが低下し、その分Bのエネルギーが増加します。

 前回の記事で、仕事とはエネルギーの移動だと説明しました。それと同じです。熱は「運動エネルギー」や「位置エネルギー」と対比するものではなく「仕事」と対比するものなのです。

 これで、熱力学第一法則によって、力学的エネルギー保存の法則が摩擦のある場合にも適用できる理由がわかります。

 動いている物体が摩擦で止まるとき、物体の運動エネルギーが摩擦熱という形で周囲に伝わり、周囲の空気などの内部エネルギーに変化しているのです。

 やりました! 摩擦があってもエネルギーは保存します! 面倒なエネルギーの定義から離れることができました。

熱と仕事の違い

 熱と仕事は、ともにエネルギーの移動方法です。このふたつは何が違うのでしょうか。実は、この違いを明らかにすることが熱力学の本題です。何しろ「力学」です。熱とはどんなもので、どんな性質を持っているのか、それを知るのが「熱力学」です。

「エネルギー」だけではありませんでした。それ以上に良く使う「熱」という言葉も「熱力学」を知らなければ説明できないものでした。ということです。

「熱とは何か」はおいおい説明していくことにして、熱力学の大事な約束事を示しておきます。

 エネルギーが移動する場合、「熱」以外の移動方法を「仕事」と呼ぶ

 これが大事な決めごとです。

 力学的エネルギー保存則では仕事は「仕事とは力×動かした距離」で定義されていました。もちろん、これも熱力学の「仕事」の一種です。それ以外にも「電力」など、「熱」とは違う方法でエネルギーが移動することを全て仕事と呼ぶのです。

 何故このように分けるのでしょうか?

 実は、色々あるエネルギー移動の中で、熱だけが特別な特徴を持っているのです。

 このことは、熱力学第二法則の説明で出てきますので、その時にあらためて説明します。

熱力学第一法則

熱力学第一法則を表す式

 熱力学第一法則は、通常下のような式で表されます。

 ΔE=q+w

 ΔEは内部エネルギー変化、qは与えられた熱、wは与えられた仕事です。

 Δという訳のわからない記号を除けば、単なる足し算だけです。Δは変化量を表す記号で、E1のエネルギーを持っていたものがE2のエネルギーに変化したとき、E2-E1をΔEと呼ぶ、それだけのことです。

 結局、物質にqの熱とwの仕事が与えられたら、物質の内部エネルギーはq+wだけ大きくなるという式に過ぎません。当然ですよね。q+wのエネルギーが移動してきたのですから。

何故Δ?

 ΔEが、E2-E1なら、最初からそう書けよと言いたくなります。でも、これには理由があります。重要なのは、ΔE、つまりE2-E1の値だけで、E2やE1の値はどうでもいいのです。

 例えば、ある物体を1m持ち上げたとします。するとその物体の位置エネルギーが増加します。その増加量は場所によって変わることはありません。一階で持ち上げても、二階で持ち上げても、持ち上げた高さが1mなら同じことです。

 物体の高さが、海抜0mから1mに変化した場合も、海抜100mから101mに変化した場合でも同じです。この海抜で表した高さに相当するのがE1やE2で、持ち上げた量の1mに相当するのがΔEです。

 海抜というのは、海水面の平均を0mとするという基準で示した高さに過ぎません。高さは基準を変えれば、それに応じて変わる数字なのです。

 E1やE2も同じです。内部エネルギーの基準の取り方で変わる数字です。そんなあやふやなものではなく、どこを基準にしても同じ値になるΔEだけで議論しましょうということでΔEを使っているのです。

「ちょっと待て。エネルギーは0という基準があるじゃないか」という反論があるかもしれません。それについてはいつかまた説明するとして、とりあえず「熱力学の範疇ではエネルギー0の基準を決めることはできない」と考えておいてください。

熱力学入門
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