相対性理論は難しいと思っている人は多いのでしょうか?
実は特殊相対性理論は、それほど難しいものではありません。
ただし、いきなり、時間の遅れだとか空間の収縮という話しを聞いても理解することは出来ません。
まずは、基本である「相対性原理」を抑えておくことが必要です。
目次
ガリレイの相対性原理
ガリレイの相対性原理とは?
相対性理論を理解するためには、その名の由来でもある相対性原理を知る必要があります。
実は相対性原理はアインシュタインの専売特許ではありません。
アインシュタインが相対性理論を発表する300年も前に「ガリレイの相対性原理」と言われる原理が知られていました。
アインシュタインに行く前に、まず「ガリレイの相対性原理」を理解しておく必要があります。
ガリレイの相対性原理は
「全ての慣性系で、物体の運動は同じ法則で表される」
というものです。
慣性系というのは、等速直線運動をしている系のことです。
ニュートンの慣性の法則
「力が働いていない場合は、物体は等速直線運動をする」
の等速直線運動です。
力が働かず等速直線運動をしている場合は、どんな等速直線運動であろうが、物体の運動は同じ法則にで表されるというものです。
簡単にいうと、地上に立っている人と、等速で運行中の電車の中にいる人は、同じ状態だということです。
地上で真上にジャンプすると同じ位置に着地します。電車の中でジャンプしても同じ(電車内の)位置に着地します。何ら変わりはありません。
一定速度で走っている電車の中では、動いていないときと同じように、普段通りに過ごせるということを表しています。
言い換えれば、地上にいる場合と電車の中にいる場合で何も違わないということです。何も違わないのですから、どっちが動いているとか止まっているという区別はできません。
電車が加速している場合は話が違います。加速中の電車内で真上にジャンプすると着地地点はジャンプしたときより後方になってしまいます。
これが「ガリレイの相対性原理」です。
ちなみに「ガリレイの相対性原理」のガリレイとは、あの有名なガリレオ・ガリレイです。コペルニクスの地動説を支持したことでも有名です。
「地球が動いていたら、立ってられねえじゃん」という天動説派の主張に対して「そんなことないぞ」と反論するために、この原理が必要でした。
ニュートン力学との関係
ガリレイの死後、ニュートンが登場してニュートン力学を完成させました。ニュートン力学はガリレイの相対性原理を満たした物理法則です。
地上に立っている人も、等速直線運動中の電車の中の人も、全く同じ運動法則が適用されます。
F=maというニュートンの運動方程式です。
加速中の電車内ではどうなるでしょうか。
加速中の電車内でジャンプすると、後方に向けて加速されて着地点が後ろに逸れます。
床にボールを置いておく、と後方に転がっていきます。
力が働いていないにもかかわらず、人やボールが加速するのです。つまりニュートンの運動法則F=maが成り立ちません。
「でも、加速中の電車では後方に向かう力が働いていると考えれば、ニュートンの運動法則が成り立つのでは?」
と思う人もいるでしょう。
でも、後方に力が働くとすれば、ニュートンの第3法則「作用反作用の法則」が成り立ちません。
後方に力が働けば、反作用として前方に働く力が何かに加わっていなければなりませんが、そんなものはありません。
後方に力が働いていると解釈すると、今度は作用反作用の法則に反するのです。ということは、加速中の電車の中にいる人にはニュートンの法則が成り立ってないのです。
ちなみに、慣性系以外で現れる作用反作用の法則に従わないように見える力を「みかけの力」と呼びます。
慣性系から見るとそんな力などありません。非慣性系内にいる人からするとあたかも力が働いているように見えるだけです。
加速中の電車内の人は、実験してニュートンの法則が成り立たないことを確認することで、自分は慣性系に属していないと判断できます。
等速直線運動をしている場合は、速度が違う状態でも、どんな実験でも同じ結果が出ます。自分が止まっているとか、動いているという区別すらできません。
座標変換とは?
別の慣性系にいる人が、同じ現象を観察したとします。
例えば、電車内に置かれたボールを、電車内の人と地上に立っている人が観測したとします。
電車内の人はボールが止まっていると判断するでしょう。
地上に立っている人はボールは(電車と一緒に)等速直線運動していると判断するでしょう。
静止も等速直線運動も、どちらも力が働いていないときの物体の運動です。どちらの立場でも、同じニュートン力学が成り立っています。
法則は同じでも、観察結果は違います。電車内からみた場合と地上からみた場合で、ボールの速度が違います。
他の慣性系にいる人から見ても同じニュートンの方程式に従いますが、方程式に入る数値は違います。
電車内から見た位置や速さなどの数値を、地上から見たときの数値に変えることを座標変換と呼びます。
ニュートン力学に従ってある慣性系からみた現象を、違う慣性系からみた場合に置き換えることをガリレイ変換と呼びます。
アインシュタインの特殊相対性原理
特殊相対性原理とは?
やっとアインシュタインの出番です。アインシュタインの特殊相対性理論の基本原理のひとつが、この特殊相対性原理です。
「全ての慣性系で、物理現象は同じ法則で表される」
これが特殊相対性原理です。ガリレイの相対性原理とほとんど同じです。
ガリレイの相対性原理「全ての慣性系で、物体の運動は同じ法則で表される」
アインシュタインの特殊相対性原理「全ての慣性系で、物理現象は同じ法則で表される」
「物体の運動」を、「(全ての)物理現象」に広げただけです。
全てのと言っても、実際に特殊相対性理論で扱われるのは、物体の運動と電磁気学だけです。ですから、ガリレイの相対性原理に電磁気の現象を付け加えただけとも言えます。
等速直線運動している列車の中で電磁気学の実験をしても、地上にいる人の実験と同じ結果が得られるというのが特殊相対性理論です。
アインシュタインの特殊相対性原理とは言っても、びっくりするほど突飛なものではないのです。
地上は慣性系ではない
今まで、地上にいる人と電車の中にいる人で慣性系を例えてきました。
でも、実際は地上は慣性系ではありません。地球は自転していますし、太陽の周りを公転しています。等速直線運動をしている訳ではありません。
そのため、遠心力やコリオリの力のようなみかけの力が働いています。
しかし、私たちが遠心力やコリオリの力を感じることは、それほどありません。みかけの力が小さいということは、慣性系ではないが、割と慣性系に近いということです。
図は、自転している地球だと思ってください。もしくは、真ん中に太陽を置いて公転している地球と思って下さい。
図の円の右側にいる人は、青い矢印のように動いています。直線運動ではありませんが、短時間なら直線とみなしても大きな違いはありません。
、円の一番右端にいる瞬間は、赤い矢印の慣性系にいると考えても、大差ないということです。
同様に図の左側にいる場合は左側の赤い矢印の慣性系に近いのです。
一瞬、一瞬は、慣性系に近いのですが、円の右側にいる場合と左側にいる場合では、向きが180°変わっています。方向が180°違う、別の慣性系にいるのと同じです。。
これは、昼間と夜では全く別の慣性系にいて、夏と冬でも全く違う慣性系にいるということになります。
もし、慣性系が違うと物理法則が異なるのであれば、時間や季節によって物理法則が変わってくるということになります。
ここでは、自転と公転だけを考えましたが、太陽自身の動きまで考慮に入れると、二度と同じ慣性系に戻ることはないといってもいいでしょう。
もし、慣性系によって物理法則が変わるのであれば、同じ実験をしても毎回結果が変わることになってしまいます。
一見当たり前だが
そう考えるとアインシュタインの特殊相対性理論は当たり前のように思えます。磁石のS極とN極が引き合うのは、昼でも夜でも、夏でも冬でも同じだということですから。
しかし、そう簡単ではありません。
確かに昼間はS極とN極が引き合うのに、夜は反発するなんてことはありません。
でも、引き合う力が僅かに違うことはあるかもしれません。
実験の誤差範囲内の違いなら、それを確認することはできません。
・いつ実験しても同じ結果が得られる
・実験するたびに結果は違うのだが、違いが小さすぎて測定できない
どちらが正しいのかはわかりません。
アインシュタインの特殊相対性原理は、前者の立場です。
ちなみに、当時は電磁気学は後者だと思われていました。ですから、特殊相対性理論は当時の常識を覆すものだったのです。
前者の方が理論が単純で綺麗です。しかし、後者である可能性も当然あります。そのうち精密な実験で違いが観測されることもないとは言い切れません。
ただ、特殊相対性理論は、特殊相対性原理を基にした理論です。その後に続く一般相対性理論では、一般相対性原理を基としています。
アインシュタインの考え方は、一貫して「誰から見ても物理法則は同じ」という「相対性原理」を中心としているのです。