「ボールが放物線を描いて飛んでいく」とよく言いますが、正確には間違いです。空気抵抗とかの話ではなく、空気がない場合のことです。
一般相対性理論がどうのこうのではなく、ニュートン力学の場合でも放物線ではありません。
ちょっとした小ネタとして説明してみましょう。
目次
ボールが放物線を描くのは何故か
物理で習う計算
空気がない場合、投げたボールは放物線を描いて飛ぶのは常識だと思っていませんか?
でも、正確に言うと間違いなのです。
「物理の授業で、そう習ったぞ」
「ニュートンの法則を使って、放物線になることをちゃんと計算したぞ」
そうですね。
でも実際は違うのです。
学校で習って、計算したのはあくまでも近似式です。
「一定の重力が真下に向かって働いているとき、投げ上げたボールの軌道を計算しなさい」
の答えは放物線です。図のような状況ですね。
でも「一定の重力が真下に向かって働いている」ことは、ありません。
地球の重力なら地球の中心に向かって働きます。大げさに描くとこんな感じ。
ですから、投げ上げた場所、頂点、落ちた場所、それぞれ重力の向きが違うのです。
もうひとつ、ボールは頂点に近いほど、地球の中心との距離が離れます。重力は距離の二乗に反比例するので、重力自体も小さくなります。
ではボールが描く軌道はどうなるのか
このことを考慮して、ボールの軌道を計算するとどうなるのでしょう。
答えは「楕円」です。正確には楕円の一部です。
下の図の地上から出た部分ですね。
地球の内部まで線を描いたのは楕円だと示すために書いたものです。
地球にトンネルを掘って、内部までボールが届くようにしても楕円にはなりません。
地球に大きさがなく中心に質量が集まった質点とすれば(地球の内部まで侵入しない場合なら、この仮定で計算できます)、図の通り楕円の周回軌道を採ることになります。
どれくらい違いがあるのか
実際に楕円軌道を計算して、放物線と比較してみました。
計算は、ボールが最高地点で地上100mの高さまで上がり、投げた地点から落ちた地点までの距離を200mとして行ってます。超特大ホームランというところです。
楕円軌道を青線、放物線軌道を赤線で重ねて書いてみると
えーと、楕円軌道が青線、放物線軌道が赤線です。
紫の線が一本あるだけ?
重なってる!
まあ当たり前ですね。差がほとんどないから近似計算で済ましているんですから。差が大きいものを近似と呼ぶ人はいません。
計算結果を見ると一番ずれているところで約0.4mmの違いです。100m単位で描いた図で0.4mmじゃ重なります。
そういえば惑星の軌道も楕円です。
ということは、重力が働くときの軌道は楕円が普通なのか。放物線を描くことはないのか。
いえ、そうとも言い切れません。放物線を描く場合もちゃんとあります。
投げたボールの軌道
速度が遅い場合
地上に建てた高い塔のてっぺんから真横にボールを発射しましょう。
発射速度が遅いと、すぐに地面に落ちてしまいますね。
そのときの軌道は楕円です。発射速度を速くしていくと、だんだん落下地点が遠くになっていきます。そのときの軌道も楕円ですが、少しずつ丸くなっていきます。
もっとスピードを上げてみましょう。
ある速度に達すると地球を一周する周回軌道に入ります。
楕円が円になるのです。
速度が速い場合
更に速度を上げると、軌道は再び楕円になります。
速度が遅いときの楕円とは違うところがあります。楕円には焦点がふたつあり、地球の中心が焦点に位置しますが、速度が遅いときは地球の中心が塔より遠い方の焦点にあり、速度が速い場合は近い方の焦点にあります。
ちなみに、下の図は適当に描いています。なんとなくイメージだけを伝える図です。
もっと速度を上げるとどうなるか
もっと速度を上げるとどうなるでしょうか。地球の重力圏から離れて戻ってこなくなります。そのときの速度を脱出速度と呼びます。
この脱出速度ぴったりの場合に、軌道が放物線になります。図の赤線です。
それ以上、速度を上げると双曲線になります(外側の青い線)。
楕円から双曲線に移る一瞬だけ、放物線になるのです。
楕円と放物線と双曲線
円錐曲線
楕円、放物線、双曲線の三つの軌道が出てきましたが、この三つの曲線は良く似ています。楕円と放物線を重ねた図を見せましたが、一部だけをみると、ほとんど区別がつきません。
それもそのはず。この三つは円錐曲線と呼ばれる仲間なのです。
図を書くのは苦手なんですが、また適当に描いてみました。
この図は円錐です。円錐を平面でバサッと切断します。
少し斜めに切ると、青い面のように楕円が現れます。
斜めの角度を上げていって、母線(円錐の角度)と並行に切った場合に現れる赤い面が放物線です。そして黄色が放物線です。
「そりゃ区別つかないよな」って感じです。
不思議に思いませんか? 重力が働くときの物体の軌道と円錐に何か関連しているような……。